【副業・兼業④】社会保険の適用

 前回まで兼業・副業時の賃金支払いについてまとめ、労働時間の管理方法について課題が残ると記載しましたが、政府では「副業・兼業の場合の労働時間の管理の在り方に関する検討会」が開催され、事業主が異なる場合の実効性のある労働時間の管理方法について検討が開始するようです。企業が兼業・副業を推進しやすいような内容にまとまっていくことを期待したいですね。
 さて今回は、兼業・副業を認めた場合社会保険や健康診断をどちらがどのように取り扱うかについてまとめたいと思います。

1.労働者災害補償保険
 労働者災害補償保険(いわゆる労災)は、事業主が労働者を1人ても雇用していると
適用の対象となりますので、本業と兼業・副業がいずれも労働契約である場合、
いずれの事業所でも適用されることになります。

①労災申請書、事業主の証明欄はどちらが対応する?
 では、いざ労災事由が発生したときはどうでしょう。
業務上の怪我や病気がいずれかの事業所で発生したことが明確である場合、
発生した事業所の事業主が申請の証明を行うことになります。
ですから労災事由に伴い休業をし、休業補償、障害補償、遺族補償等を行う場合は、
労災事由が発生した事業所の賃金分のみ労災保険給付の対象となります。
 どちらの事業所の業務や通勤が労災事由に該当しているかはっきりしている場合は
いいのですが、過労死や過労自殺についてはどちらの事業所が原因となっているかの
判断は簡単にはつかなそうです。現在の過労死等の労災判断基準は一つの事業所の
労働時間によって判断されていますが、政府が兼業・副業を推進していくのであれば
このあたりの判断も変わってくるかもしれません。

②兼業・副業先への移動はどちらの通勤労災が適用されるのか?
 これについては、通達により「終点たる事業上の保険関係で行う。」
されています。つまり、ひとつの事業所Aで仕事を終えたあと、事業志主の異なる
事業所Bへ移動した場合、事業所Bへの通勤と判断されるということです。

2.雇用保険
 雇用保険については、事業主が異なる複数の事業所で加入要件を満たしても
加入するのは1つの事業所となります。この事業所は「その者が生計を維持するに
必要な主たる賃金を受ける雇用関係者」つまり、その労働者のメインの所得が
どちらかによって決定します。

3.厚生年金保険、健康保険
 厚生年金及び健康保険の適用要件は、事業所毎に判断されます。
本業であるA社、兼業先であるB社それぞれの労働契約において、
厚生年金保険、健康保険の加入要件を満たしている場合、A社、B社
いずれでも加入することになり、「2以上勤務者」として扱われます。
それでは保険証も両方から保険証が発行されるのかというと
そうではありません。被保険者である労働者が「選択した事業所」で
保険証が発行されます。
 ただし、保険料はいずれの事業所でも発生します。それぞれの事業所での
所得を保険者(協会けんぽ、健康保険組合、年金事務所等)に報告し、
合算された額から標準報酬月額が算定され、各事業所の賃金比率に応じて
保険料額が決定します。
 これまでも会社の役員や顧問に対してこの「2以上勤務者」が適用される
ことは多くありましたが、兼業・副業が増えると一般の労働者でもこの事例が
増えていくことが考えられます。

兼業・副業先が労働契約である場合、割増賃金の支払だけでなく、
社会保険についても、兼業・副業をしていない労働者に比べて判断がつきにくかったり
手続が多かったりと管理の手間は増えそうです。
兼業・副業を推進していくにあたっては、実務面を考慮した法改正や
運用ルールの改定もあわせて推進していただきたいものです。