【無期雇用転換制度⑧】無期雇用転換権の周知

2018年4月を目前に控え、無期雇用転換に関する記事へのアクセスが増えているようですので、
このテーマについて引き続きまとめたいと思います。
①からお読みいただいている方にとっては、やや重複する内容もありますがご容赦ください。

 

1.そもそも周知とは?

現在厚生労働省では、ポータルサイトやメルマガ、雇用保険の手続きの際など、様々な方法で、
無期雇用転換権に関する周知を呼びかけを行っています。
さて、この「周知」という言葉は労働関係法令上よくでてくることばですが、どうすれば
「周知」と言えるのでしょう。
辞書で「周知」を調べると「世間一般に広く知れ渡っていること。また、広く知らせること」
と記されています。
つまり厚生労働省は「お宅で働く人全員にしっかり知らせてね」と言っているわけです。
誰もめったに見に行かない共有フォルダや会社の掲示版にこっそり掲載するのは「周知」とは
言えないことになります。



2.周知すべき事項は?

周知させる情報は以下となります。

① 無期雇用転換制度の概要
② 無期雇用社員就業規則(制定した場合に限る)
③ 無期雇用転換権を行使するための手続き方法
①③を②にすべて掲載していまうという方法も考えられます。

尚、無期雇用社員の就業規則を制定した場合、そもそも労働基準法上「就業規則の周知義務」がありますので、
周知が必須となります。
ここに誤解があるようなのですが、就業規則については、その適用の対象となる方にのみ周知させれば
よいわけではありません。
社員、パート社員、無期雇用社員など就業規則が複数ある場合、事業場の全ての従業員が全ての就業規則を
確認できる必要があります。

①については積極的に周知させたくないというお考えの企業もあるようですが、
これから4月にかけてはメディア等でも取り上げられる機会が増えることが予想されます。
労働者に偏った情報発信がされるケースもあるでしょうから、事前に誠意をもって制度概要と
会社の対応を伝えたほうが、労使間のトラブルを未然に防げるのではないでしょうか。

また、③も重要です。個人的には②の就業規則もしくは有期契約の就業規則内に掲載することをお勧めします。
有期契約から無期雇用契約への切り替えは、無期雇用転換権が発生すると拒むことはできませんが、
無期雇用契約の就業規則など別段の定めを行うことで、労働条件をある程度会社側が決定することができます。
無期雇用への転換申込を行う際には、「予め就業規則の内容を確認し就業条件を承諾している」旨の
誓約書を提出してもらうなど、会社が無期雇用に切り替えるにあたり念を押したい事項を手続きとして
定めるのがよいでしょう。



3.周知はいつする?

無期雇用就業規則を制定した場合は、必ず無期雇用転換権が発生する前に、その就業規則を周知させましょう。
事前に周知させていない状態で無期転換権を行使された場合、有期契約の労働条件を維持しなくてはなりません。
そこから就業規則を適用しようとし、その内容が有期労働契約と比べてデメリットがある場合、いわゆる
「不利益変更」となってしまいます。
労使間トラブルとなった場合に適用される法律も以下のように異なります。

【事前に周知させていた場合 →労働契約法七条】
第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

【事前に周知させていない場合 →労働契約法第九条、第十条】
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

※第十二条とは個別の労働契約の内容が就業規則を下回る場合は無効とし、就業規則の内容が有効となることが定められた条文

つまり、事前周知があれば、合意なく就業規則を適用することができますが、事前周知がないと、
原則として不利益変更に対して合意が必要となるわけです。

 

4.対象者へ対応

この制度は労働者に与えられる権利ですから、無期雇用転換への条件として試験や面接を
設けることはできません。
しかしながら、会社にとっては退職まで雇用を確保するという大きな責任が課せられる
わけですから、軽い気持ちで権利行使をしてほしくないというのが本音でしょう。
そのためには手間であっても次のような手順を踏まれてはいかがでしょうか。

①無期雇用社員の役割・責任を明確にし、労働条件とともに就業規則等で定める。
       ↓
②就業規則の内容を対象者に十分に説明し、理解した上で無期転換権の行使するかを決めてもらう。
       ↓
③無期転換にあたっては人事面談を行うなど、転換後の役割・責任について意識付けを行う。

まだ、手続き方法を決めていないという企業様は、ご検討ください。

 

 

【無期雇用転換制度⑨】無期雇用転換権の放棄

【無期雇用転換制度⑩】関連して行われる制度等変更

【無期雇用転換制度①】労働契約法第18条無期労働契約への転換とは

【無期雇用転換制度②】無期転換ルールの特例

【無期雇用転換制度③】必要な準備~無期雇用社員の就業規則を作成する前に~

【無期雇用転換制度④】必要な準備~無期雇用社員の就業規則を作成する前に、その2~

【無期雇用転換制度⑤】必要な準備~法的対策①就業規則の整備~

【無期雇用転換制度⑥】必要な準備~法的対策②無期転換手続の整備~

【無期雇用転換制度⑦】就業規則作成のポイント①第二定年