前回につづき、無期雇用転換権をテーマとして取り上げます。
今回は「無期雇用転換権」の権利放棄についてです。
1.無期雇用転換権の放棄は可能か?
無期雇用転換の社内手続きを検討するなかで、「無期雇用転換を希望しない人には権利放棄をしてもらえないか?」という考えでてくることがあります。
無期雇用転換を積極的に推進をしたくない会社側の立場で考えると、こういった考えがでてくることも理解はできます。
そもそもですが、無期雇用転換が規定されている労働契約法において、無期雇用転換権の権利は放棄できるともできないとも定められてはいません。
つまり、無期雇用転換権の権利が有効となるか、無効となるか、条件によって有効となるか無効となるかは現時点で法令上では判断はできないのです。
2.権利放棄が成立する条件は?
法の趣旨を考えてもあまりお勧めできない権利放棄ではありますが、それではテーマとして取り上げる意味もなくなりますので、
特に注意すべき点についてまとめてみます。
①権利放棄が可能になるのは権利が発生してから
有期契約の場合、だいたい契約終了日の2~1ヶ月前に契約更新について確認を行うと思われますが、この時点で権利放棄の合意をとることは
公序良俗に反するとして、無効になる可能性が高いようです。
放棄の合意をとるならば、無期雇用転換権が発生している期間中ということになります。
②権利を放棄した場合どうなるかの説明を十分に行う
例えば権利放棄について合意書のような書面をとったとしても、それが有効となるとは
限りません。無期雇用転換権を放棄するとどうなるのか?について十分に説明し、
労働者が納得して権利放棄に合意をしなければ後々「強制的に合意書をかかされた」
と訴えらえることも考えられます。
トラブルが想定される状況としては、「合意をした時点では当面契約更新がされると
思っていたが、契約が終了となることが分かった。」「合意をしていた時点では契約が
終了となっても良いと思っていが、(労働者側の)状況が変わった。」 といった
ケースです。
そういった状況まで含めて納得した上で合意書がとれれば良いですが、労働者の立場に
たつと、そこまで考えたときにわざわざ放棄する理由が見当たりません。
③契約更新し権利発生の都度権利放棄の合意を得る
仮に一つの権利発生期間中に権利放棄の合意を得たとしても、契約を更新し新たに有期契約を締結すると再度無期雇用転換権が発生します。
つまり、契約更新をし、新たな契約期間が開始するたびに権利放棄の合意のお話しをすることになります。
これはかえって労働者が無期雇用への転換を考える機会を与えるようにも思われます。
3.考えられる権利放棄の効果は?
結局「2.」でも権利放棄のお勧めはしないという内容をまとめた結果となってしまいましたが、
一つだけ有効ではないかと考えている運用があります。
それは無期雇用転換権が発生している契約期間中に次の有期雇用契約の更新を行うと同時に、
更新日以降の無期雇用転換権放棄の合意を得る方法です。
この状況であれば労働者も次の労働契約に合意をしており、かつ新たに無期雇用転換権が
発生することが見込まれる状態であるため、不利益と捉えられることは少ないと考えられます。
※権利放棄を更新の条件としていはいけません。あくまでも雇用契約の更新が先です。
では、これが会社側にとって何のメリットがあるかということですが、口頭でも成立する
無期雇用転換権の行使がされなかったという記録が残せるということです。
まだ本格的に無期転換権の行使が運用されていない状況であり、今後どのように解釈が定まっていくかは不明ではありますが、
制度運用の参考となれば幸甚です。
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